シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

沼津市の鉄道高架事業は止めるべき

先だって沼津市について取り上げましたが、ちょっと状況がヤバそうなので、エントリーを上げることにしました。


自滅する地方 沼津・三島・伊豆編
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20150712/1436692086


沼津駅周辺の鉄道高架事業の件です。
前回エントリーでも取り上げましたが、沼津市では駅周辺の高架事業を巡ってバタバタしております。市当局はかなり強引に高架事業を進めようとしていますが、貨物駅移転先候補の片浜地区の住民同意が一部取得できないため具体的進展はありません。ただ、静岡県知事も鉄道高架事業へ前向きになったため、今回の市長選次第では強制収用も含めて事業が進められる事になるでしょう。
ただ、その結果はどうかといえば、おそらくは沼津市に大打撃を与える事になると予測されます。
つまり、エントリータイトル通りの、沼津市の「自滅」となる、ということです。
これほど、ハッキリとした失敗例は今後の参考となると思われるので、指摘することにしました。

1.人口・交通量予測に見合った計画ではない


鉄道高架を進めようとする理由ですが、沼津駅周辺の道路がトンネル式になっており、自由な往来が難しく慢性的な渋滞を招いている事が挙げられています。自由な往来を阻むことが、沼津市の発展を阻害するので、高架事業によって沼津市が大きく発展する、的な話です。
もともと、私は「自動車利用による」交通拡大には批判的ですが、それは後にしましょう。市当局の述べる理由に限っても効果の程は疑わしいのです。
まず、沼津市に限らないことですが、今後人口減少が確実です。鉄道高架事業は、最短であっても10年以上掛かることが計画段階でも明らかです。現時点では移転先土地取得が済んでいませんから土地の強制収用に踏み切ったとしてもそれより早くなる可能性はありません。
また、人口推移以上に自動車保有率や免許保有率を考えても自動車の走行台数は大幅に減り込みます。つまり、駅周辺の三か所のトンネルでも渋滞が問題にならなくなる、と予想されるのです。
もちろん、市当局は、高架事業が行われれば、沼津市が発展し、産業や雇用を呼び込み、人が増える、と主張するでしょうけど、もともと企業の進出に至る理由として交通の便は重視されていないのです。たかが駅周辺が高架化されたからといって、それほど市が発展し、(日本の大半のトレンドに反して)人口増加すること自体が考えにくい。
むしろ、身の丈に合わない事業となるでしょう。事業費は約1000億だそうです。これだけの資金、他の教育・福祉・介護等へ使った方が有意義だと考えます*1

2.観光客を過大視している


もう一つの問題として、沼津市が観光地である沼津港へのアプローチの悪さ、を挙げています。しかし、沼津港周辺はすでに県内外のクルマで慢性的に混雑しています。高架事業によって駅南北の車の通行がスムーズになれば、沼津港周辺の混雑が悪化するだけです。
そして、現在もそうですが、クルマによる訪問客を当て込みすぎるために、逆に港の魅力を損ねようとしています。クルマの往来が激しく、自由な散策が難しい。小さな港町なのにクルマに風情を邪魔されているのです。
観光地はどこもそうですが、いい加減、無理してクルマの訪問客を呼び込もうとするのを止めた方が良いと思います。沼津あたりだとクルマ客は宿泊が少なく、お金も落としません。やみくもな訪問客数を増やそうとするより、利益率で考えた方が良い。クルマによる訪問を全面否定はしませんが、道路を改善すれば客が増える、的な発想は無意味だと思います。

3.計画と見込が矛盾だらけ


前回も記した話ですが、沼津市愛鷹山麓近く富士市から商圏を奪える位置に大型ショッピングモール「ららぽーと」を誘致する予定です。わざわざ用地転換や固定資産税の減免措置まで優遇して郊外へ大型商業施設を誘致し、沼津駅周辺の高架事業を進めるわけですから、人口減の時代に一層の「郊外化」を進めよう、ということです。
ですが、沼津市は「コンパクトな街づくり」を進めるのだそうです。


第4次沼津市総合計画の一部追加修正
http://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/keikaku/sogo/tuika.htm


意味がさっぱり分かりません。*2何度も説明してきた事ですが、(道路拡張・延伸・新設と区画整理事業等の)郊外化を進めるなら、(複合商業施設、商店街事業補助等の)中心市街地活性化事業はムダになります。それは、相反する作用をもたらすからです。どこの地方も大体こうした事業を進めて地域経済を縮小させ、市中心市街地の固定資産税収入を落ち込ませ、財政を悪化させ、人口流出を招くのですが、未だ懲りる様子は無いようです。沼津市の事業はその典型例でしょう。


今後の人口減少・高齢化社会においては、都市をコンパクトにする、事は欠かせないだろう、と私は思いますが、それは私の意見です。都市をコンパクトに保つ事に興味が無いのなら、それはそれで良いのです。道路拡張・延伸・新設と区画整理事業を進めて郊外化に拍車を掛けても、それが望ましいと思うのなら、それもありです。ただ、それならば、中心市街地活性化事業は止めるべきです。
逆もまた然り。都市をコンパクトに保ちたいなら、自動車を中心とした交通手段からは決別すべきです。道路拡張・延伸・新設と区画整理事業は中止ないしは凍結し、人が徒歩で移動できる圏内に生活インフラにアクセス出来るような都市構造を再構築すべきです。


沼津市の駅南側は、駅北側より多少まし、と以前述べました。時々メディアにも登場する上土(あげつち)商店街なども、駅の南側にあることが未だ救いになっています。


ようこそ 沼津あげつち商店街 へ
http://www.roy.hi-ho.ne.jp/i846/agetsuchi-s/


もし、高架事業が行われて自動車交通がスムースになり、市郊外の大型商業施設の利用が容易になれば、こうした僅かばかり残った商店街も壊滅するでしょう。

4.ではどうしたらよいか?


どこでも基本同じことではありますが、自動車を基本とした交通手段と決別するのが一番良いでしょう。
少子高齢化による人口減少。パリ協定・自動車のEV化/自動化という自動車への逆風。ライフスタイルの変化。どれをとっても、自動車を中心とした交通インフラは、将来の負債にしかなりません。先を予測するなら、コンパクトな都市とすべきですし、そこまで踏み切れないなら、せめて過去に立案された都市計画を凍結するくらいの事はした方が良いです。
沼津駅周辺の高架事業よりも、沼津駅南北の自由連絡橋の方が適当です。希望を述べるなら連絡橋というレベルでは無く、連絡広場と云える広さのものが出来れば面白いかもしれません。


無駄な鉄道高架中止で市長申し入れ! (共産党市議 中田たかゆき議員のブログより)
http://blogs.yahoo.co.jp/syominnnohikari/65545307.html


地方はいい加減、拡大していく都市、のイメージから脱却した方が良い。もう、人口が増える可能性はありません。今後、どんな少子化が打たれるかは判りませんが、少なくとも今後2,30年内に人口増になる可能性は無いのです。とすれば、人口減、生産年齢層減、の前提で基礎自治体を維持することを前提にしなくてはなりません。60〜70年代に立てられたマスタープランに固執し続ければ、願望と現実のギャップはどんどん膨らみます。
幸いなことに先行例はあります。良い例も悪い例も。
皆様、今一度、自身の住む自治体はどうしたらいいのか考えてみましょう。
では。

*1:これは、国全体でも見てもそう考えます。「国土強靭化」や「雇用創出」と銘打った公共土木事業は効果が薄く、その分を教育・福祉・介護等へ使う方が経済成長すると予測します

*2:ちなみに、この沼津市の挙げている市の計画像はさっぱり意味の通じないものです。流行りとなった「コンパクトシティ」を現状に無理矢理差し込もうとするので、こういう訳の判らない像になっています。