シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

ワトソン・アインシュタイン・「ガリレオ」

ジェームス・ワトソンの人種差別発言が問題になった。

ノーベル賞博士が差別発言「黒人、知能で白人に劣る」

DNAの二重らせん構造を発見し、1962年のノーベル医学・生理学賞を共同受賞した米コールド・スプリング・ハーバー研究所会長のジェームズ・ワトソン博士(79)が「黒人は知能で白人に劣る」と発言し、新著宣伝のため訪問していた英国内で波紋を広げている。

 政治、宗教、人種問題をめぐる歯にきぬ着せぬ発言で知られる同博士は、14日付の英日曜紙サンデー・タイムズのインタビューで「アフリカの人々(黒人)の知能はわれわれと同じという前提で社会政策がつくられているが、すべての知能テストがそうではないことを示している」と発言。「今後10年内に遺伝子が人間の知能に差をもたらしていることが発見されるだろう」などと語った。

 19日に同博士の講演を予定していたロンドンの科学博物館は17日、「博士の発言は科学的論争の限界を超えている」として講演会の中止を決定した。(ロンドン 木村正人)

http://sankei.jp.msn.com/world/europe/071019/erp0710190941000-n1.htm

(via:捨身成仁日記 炎と激情の豆知識ブログ!)

http://d.hatena.ne.jp/buyobuyo/20071019#p2


まあ、ワトソンの差別主義は今に始まった事じゃないんで、気にするのもどうか、と云うレベルだ。
以前、「精子バンク」に関連した話もあった事だし。たしか、“ノーベル賞受賞者を含む天才限定”の精子提供に関して、ワトソンの名前も出ていたはずだ。優生学的主張を繰り返すワトソンは、“天才バカの一種だな”ぐらいに思っていたのだが、福岡伸一の本を読むと、果たして天才だったのかも疑わしい気分になってくる。
ワトソンの評価といえば、「DNAの二重らせん構造の発見」と、専門外の自分でも承知している。
が、正直、その後の研究でも名の知られた存在であるクリックに比べると、ワトソンの方は何やっていたのかよく判らない。しかも、功績である二重らせん構造発見も、クリックの方が主導で、しかもそれさえもパクリ(というには語弊があるが)となれば、ワトソンはいったい何者?という気がしている。
正直、何が凄いの?


知能(I.Q.)に関して云えば、“ある集団に属する個人の、集団における共通知識の理解度”という位置づけなんで、頭の良さ、とやらと直接結びつける事など不可能なはずだ。
その個人の帰属する集団や社会的地位、生育環境、などによっても大きく差が出る。
アシモフ知能指数を評価の、ましてや差別に利用する事を強く批判していた。
遺伝的要因、とやらを取り出すのも、対象比較を同条件に置く事が実質的に不可能な以上、統計調査ぐらいしか判断材料が無い。しかも、知能に関わる要因など、両手じゃ足りないほど存在する。
劣化ウランや電磁波の発ガン性、*1などよりはるかに複雑だし、知能の差がそれほど出てくるとは思えない。有意差を断定する事はまずムリだ。
そんなに調べる事がタブー視されている、とは思わないが、結果に関しては厳しい目が向けられるだろう。実際、その動機が疑われるのは間違いない。あまり意味のある研究とも思えない。
人種間の違いなど出てきても、「で、どうするの?」だ。人為的に知能を上げる研究?教育予算に金を遣えよ。


天才バカ、といえば、フジTVの「ガリレオ」。主人公のキャラ、“変人の天才物理学者”に複雑な思いであるが、家族には「物理学者と云えば、アインシュタインだからね」と云われた。
なるほど、物理学者といえばアインシュタインなのか。
確かにアインシュタインは日本じゃ大人気。アインシュタインの大予言、とか云うのもあった。
昔、「アインシュタイン・ロマン」とかいう、サッパリ判らない番組もあったし。辛辣な口調はともかく、物理学者のステロタイプというのは、アインシュタインが基準、と云われると納得できるものがある。


物理の世界に首を突っ込んで知ったのは、アインシュタインは確かに天才なのだが、それに勝るとも劣らぬ天才がゴロゴロしている、という事実だった。
例えば、固体物理では必ずお世話になる「群論」。大学時代、「群論」の書籍と首っ引きでウンウン唸っていたのを思い出す。正直に言えば、未だに空間群解析には教科書を引っ張り出してきて調べている。ところが、「群」の概念は早逝の天才アーベルや、10代で「群」に関する研究を行ったガロアらにより確立された。比較するのもおこがましいが、アーベルやガロアが10代で発見した事が、指針となる書籍があってなお、理解に苦しむざまだ。天才というのはいるものだなぁ。としみじみ感じるのが、凡人の凡人たるゆえん。物理の世界では、こんな天才達の爪痕を至る処で見る事が出来るわけで、物理学者といえば、アインシュタイン、というのは安易だな、と考えてしまう。
どちらかといえば、自分にとっての“より望ましい物理学者像”といえば、リチャード・ファインマンである。
ファインマンも学生時代に経路積分法を自力で編み出してしまい、「え、みんな知らなかったの?」という人で、その経路積分法でノーベル賞*2を受賞。イタズラと冗談好きで饒舌なファインマンは、変人というより洒脱な人である。
どうせなら、ファインマンが物理学者のステロタイプになるといいのだがな。


さて、ワトソンのような優生学的主張なんだが、実は理系研究者においては、おおっぴらとは云えなくても、そういう雰囲気はある。
誰、とはもちろん云えないが、以前、ある大学に実験設備を借りに出掛けたときのこと。そこの講師は自分より若干年上だったのだが、実験の合間にいろんな話をした。
当然出てくるのが所属講座のボス(教授)の悪口。そして、ゼミ学生に対する不満。
で、そこから話がエスカレートしていく。
「女は男より知能が低いから、理系には少ないんだよね。」
「女はサッサと結婚して子供産まないと。少子化になるよ。」
「頭の悪い連中は早く子供作って増えるけど、エリートはなかなか結婚して子供を作らない。」
「エリートが増えないで、ヤンキーが増えるから、日本はどんどんダメになるよ。」
正直、鼻白んでしまうほどの差別主義。男女差別、文理差別、主婦・女性就業差別、etc。
もちろん、同意は出来ないけど、「それはおかしい」などとも反論するでもなくやり過ごした。
しかし、彼の奥さんは、かつてのゼミ生(つまり、教え子)であった。果たして、彼の考えをどう思うのか訊いてみたかったが、それは出来なかった。
案外、夫の意見に賛成だったりして。「でも、私は別」。気が滅入りそうだ。


こういう風潮は結構見られて、とりわけこの手の主張が目立つのが、東工大出身者*3
他大学を見下す姿勢と、自ら(工学研究者)の優位を恃んで誇る姿勢は崩さない。そういう研究者に出身がどこか尋ねると、東工大出が多いんだ。ついでにいうと、工学と理学でもスタンスに違いがある気がする。工学はネオリベ系が多くて、理学はリベラル系、みたいな感じ。少数のサンプルでしかないし、自分の偏見もあるから一般的な意見にする気は無い。あなたの周りの理系はどうでしょう?

二重らせん (講談社文庫)

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ダークレディと呼ばれて 二重らせん発見とロザリンド・フランクリンの真実

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生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

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ジーニアス・ファクトリー

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ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

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追記:


id:buyobuyoさん

東工大の件は、工学系が安く見られる理系のヒエラルキーや、東大コンプレックスといった、劣等感の裏返しでしょう。

なるほど。確かにかつては工学系って、一段低く見られがちだったかもしれませんね。最近では傾向が変わってますけど。
東工大も立派に実力者を排出しているんですから、卑屈さを出さないで欲しいものです。


書を守るものさん

物理学者なら寺田寅彦ですよ。

これだけは、指摘して欲しくなかった。笑)
寺田先生は、名文家、博覧強記、人格者にして非線形物理を予言した偉大な人ですからね。
雑文書き散らすエロ酔っぱらい場末の物理学者とは、比較対象には到底なり得ません。
寺田先生がステロタイプになると肩身が狭くなってしまいます。
ただ、その高潔さは学びたいと思っているんですけど。

まぁ、物理学者のルックスは福山雅治、がデフォルトというのも勘弁して欲しいところですが。

*1:これらに関しては、統計では発症者には数倍の差があるが、その他の要因を考慮すると劣化ウランや電磁波に発ガン要因があるとは認められない、とされている

*2:朝永振一郎繰り込み理論とも関連する

*3:もちろん、全員がそういうわけじゃない