ミスト（ネタバレあります）

アメリカ東海岸の片田舎。大嵐によってあちこちが壊され、停電に陥った街を霧が包む。霧から転がり出てきた血まみれの男は「霧から逃げろ！何かが潜んでいる」と叫び、スーパーマーケットの客たちは霧の中に潜む何かを避けるために建物に立て籠もる。客たちは何とかしようと努力するが、孤立無縁の彼らは徐々に狂気に犯されていく。

既にあちこちで絶賛？されている「ミスト」。キングの映画でこれほど恐かったのは久しぶり。キングの映画といえば、なぜかスットコドッコイに終わるのが大半で、下手に原作に忠実にするより独自の解釈を加えた方が傑作になるようだ。「キャリー」「シャイニング」「デッドゾーン」「クリスティーン」「ミザリー」などが浮かぶ。恐怖映画でなければ「スタンドバイミー」「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」が挙げられるわけだが、後ろ二つがダラボンが手がけたもの。「ミスト」はキングの中編*1「霧」が原作で、見事なくらい原作に忠実。ところがラストは原作を知るものもビックリ。えげつないほどの終わり方に強烈な悪意を感じる。なにせ、本当に救いの無いラストなのだ。どういじくったってハッピーエンドにすることは可能だったろうに、あのラストこそを見せたかったとしか思えん。

そう考えると、「ショーシャンクの空」も「グリーンマイル」も、原作に忠実に作られているようで、ずれたところは、実に悪意に満ちている。「ショーシャンク」では原作で露見しなかった刑務所長の悪事が暴露され、刑務官と所長は破滅する。「グリーンマイル」でも長寿の呪い（としかいいようがない）は孤独さを際だたせている。意外に腹黒いな、ダラボン。
「ミスト」はそれだけじゃなく、オーソドックスな展開の割に、カット毎に動きが盛り込まれていて静止の画面が無い。それがテンポの良さを生んでいる。ヴァーホーベンあたりが使う手法。

それにしてもオリジナルな展開部分のえげつなさ。
原作では二人だった兵士は、三人になって、自殺するのは原作と同じ二人。で、残り一人は？やはり原作ではちょい役だった女性店員と恋人同士で、二人で隠れてチョメチョメ。“ああ、惨死決定”の宣告。店員は虫に刺されて死亡。兵士は“生け贄”として怪物に捧げられてしまう。軍の秘密実験が生んだ事件であることを明かすのもオリジナル。
原作では土俗的狂信者だったカーモディをパプテストっぽい狂信者にしたてたのもオリジナル。

オリジナルな部分を繋ぎ合わせると、ダラボンが盛り込みたかった部分が見えてくる。

突然起きた悲劇に狼狽えていると、半キチの宗教かぶれが「あれは××のせいだ！」と扇動し、贖罪しろ、生贄を捧げろ、と主張し、兵隊を犠牲にしてしまう。それまで比較的冷静だった人々は理性的な判断力を失い、扇動に容易く乗せられてしまう。冷静さを保っていた人々（主人公の事だ）は、仲間じゃないモンね、と逃げ出すが、どっか冷静さを欠いており、結局破滅する。

なんのことはない、これも9.11のメタファなのだ。よほど、ハリウッドに9.11が与えた影響はでかかったのだな。9.11自体が“ハリウッド的”だったせいか、そういえば「コラテラル・ダメージ」は公開延期に追い込まれたっけ、9.11を正面から扱い皮肉を盛り込む事には消極的な感じ。
結局、「クローバーフィールド」もそうだが、隠喩として扱うみたいだ。

お前ら、ボンクラども。逃げられると思うんじゃねぇよ。オバマに熱中すれば逃げ出せると思ったか？ブッシュの扇動に乗せられて、星条旗を振って、「奴らに復讐しろ」と叫んでいたことを忘れたか？ナニも知らねぇガキどもを死地に放り込んで死なせた事を知らないふり決めこんでんじゃねぇ。てめェらが播いた種だ、って事を忘れンじゃねぇよ。逃げようったって、てめェらには逃げるトコなんてねぇんだよ。

ダラボンはそう叫んでおります。

さて、最後に、ウィリアム・サドラー。ダラボンのお気に入りで「ショーシャンク」にも「グリーンマイル」にも出ておりました。ボンクラ役がすっかりお似合いで、今回もボンクラ役の期待を裏切りません。尊大だったり、卑屈だったり、役に立つかと思ったら、役立たずだったり、味方だと思ったら寝返ったり、と小市民役バッチリ。等身大のバロメーターですな。
でも、ダイハード２では、冷酷な反乱将校やってたりする。なかなかの役者。