シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

どくとるランボウ後悔記 その2

翌朝も早々とモーニングコールで起こされる。その日のうちに日食が見られるポイントに先乗りしなくてはならないので、早朝移動するのだ。そういえば、日食見に来たんだっけ。


朝食はホテルのビュッフェでバイキング形式。あぁ、露店の朝がゆが食べたかったよ。一応、朝がゆもあったので朝がゆに漬け物や豆腐ようを混ぜて食べる。まぁ、なかなかに美味しいかな。しかし、他の客はパンとか喰ってやがるぜ。中国に来てパン食うことも無いだろうに。え、寿司?そんなものまであるの!なんか、食事の楽しみは薄そうな予感。


自分は出立までの準備をサッサと済ましてしまって時間が余ったので、ホテル界隈を見物に。カメラを持たなかったのが失敗。とても面白かったのに。早朝から餃子屋が店開いていたり、音もなく走る電動バイクが多いのが見れたり、ロードバイクが若干だけど走っていたり、日本語の看板「サウナ・マッサージ」があったり…。やっぱり、街散策が一番面白いね。


バスに乗り込むと一躍上海南方へ。高速道路をひた走ると至る処で緑濃き水路とそれを中心とした小さな集落。何を飼っているのか判らない、おそらくはエビか淡水魚か、養殖池。アヒルも大群で飼われている。水路に浮かぶ船は小さくて櫓か櫂で漕ぐもの。水路と交差する高く小さな橋。そんな集落が現れては消え、また現れるのだ。残念なことに、巨大な集合住宅地や工場群も目に付く。どうやら、こんな牧歌的な風景にも“産業化された景色”が入り込んでいるのだ。もちろん、自分たちが移動している高速道路もその一部分ではあるのだが。



こんな光景、どっかで見たな、と思い出した。ベトナムやタイの光景だ。昔から「北馬南船」と云って、中国の南部は船で水路を移動し、主食は米。一般的に日本人が中国、で想像する風景や習俗とは大きく異なっている。中国、として一括りにしている土地には大きな文化習俗に断裂があり、一方で異なる国の扱いであるベトナムやタイ、おそらくはラオス、マレーシア、カンボジアなどの国々の方と共通点が多い。不思議なものだと思う。
それにしても、中国の歴史において南に王朝を起こした勢力が北を制覇した例は、明の北伐くらいのものだ。あとは全て北が南を征服している。おそらく、豊かな土地に住む人々にとって征服の夢ほど詰まらないものは無いんだろう。
なにせ、見渡すばかりの水田では温暖な気候ゆえ二期作が可能。冬場は麦も栽培出来るらしい。水路や池、沼では淡水エビや魚、蟹にカエル、アヒルに鴨。タンパク質にも事欠かない。果樹はたわわに実を実らせ、水面を渡る風は木陰を涼しげにさざめかせる。昼間に働く姿は見えず、家で午睡を楽しみ、夕方ともなれば宴を楽しむのだ。北の乾いた大地の厳しさとは相容れないものがあるだろう。北の南に対する征服欲もその豊かさを羨んだがためなのだろうな。
その富の数々は広大な江南を網の目のように繋ぐ水路によって城市(都市部)に運ばれる。さらにそれらは都へ集められ、南の王朝の繁栄を支えたのだろう。自分が目にしているのは、そうした世界のごく一部に過ぎないのだ。


なんて事を考えていると、上海郊外の古き城址、「烏鎮」へ辿り着く。ここは古くからの交易の要衝。京杭大運河に繋がる水路の街。日本でいえば柳川や佐原みたいなものか。ヴェネチアにも劣らない美しい町並みが拡がっている。



ここは船着き場。水路が細いために船着き場が無いと船の転回が出来ない。



狭い道の両脇には建物。



それを繋ぐように水路と繋がる路地裏


水路に面した家々



道が水路に面している部分もある。



その道にはアーケードと柵沿いにベンチ。




橋は船がくぐれるように高く持ち上げられている。




密度の高い街にも関わらず落ち着くのは、柳を始めとする緑が豊富なせいだろうか。


おまけ:

昔の石造りのマンホール蓋




写真は「東柵」と呼ばれる市街。夜には「西柵」の側へ赴く。これがまた素晴らしく美しかった。
入り口から渡し船で渡ると、船着き場に遊覧船。これで水路を散策するのだ。
上手にイルミネーションされ、水路脇の店や家々からは宴の響き。どっかで見たことがあるな、と思ったら、そう、ディズニーランドの「カリブの海賊」だ。あれのリアル版。狭い水路に両側に立ち並ぶ建物。水路の交差部は広々として緩いカーブが付けられている。あちこちの橋を行き交う人々。風情のない動力船ではなく船頭の手漕ぎ、静かな水音と街の喧噪が耳を楽しませる。ここにも柳などの木々がアクセントを付ける。
残念だが、写真は全てぶれぶれだった。現在のデジカメなら綺麗に夜景が撮せるかも。
なんと、この西柵には泊まる事が出来るらしい。
ここは意中の女性を落とすならオススメですよ。この船遊びで落ちない女性などいません。たぶん。
もっとも、烏鎮に旅行に行かない?と誘って一緒に来てくれる女性は、すでに落ちてるとも云えますけど。では、少しばかり夜景の写真を。





帰りに鳴り渡る雷鳴とポツポツとくる雨に日食観測の不安を覚えながらも、烏鎮の船遊びを満喫したのでした。
(つづく)