シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

日傘がない

直上から照りつける太陽が耐え難くなってきて、自然に下を向くと地表からの照り返しもキツかった。
足下に僅かにへばりつく影が、白々と乱反射しているコンクリートと強烈なコントラストを作っている。なんで、こんなオーブンの中のチキンみたいになって歩いているのか…。汗は滴るというより湧き出てきて、濡れたシャツが体にまとわりついて気持ち悪い。汗が溜まってかぶれたヒザ裏が猛烈に痒いが、掻いてしまえば汗疹が酷くなる。僅かに吹いてくる風は涼をもたらすものではなくて、一層の熱をはらんでいる。そりゃそうだ。オーブンの中を吹き抜けているんだから。幻覚か鼻の奥が焦げ臭く感じて顔を上げると、汗が眼に入り込んでしみた。イライラを一層募らせるのは、脇を抜けていくクルマのせい。巻き起こされた音が耳に突き、埃がノドをいがらっぽくさせる。クルマに乗っている連中はエアコンをガンガンに効かせているんだろう。閉め切った窓からは運転手の姿は見えなかった。


たまたま訳あって某ショッピングモールまで歩くハメになった。その通りすがらの感想が上のもの。延々とコンクリとアスファルトに覆われ、木陰もない広い通りを歩くのは砂漠を行くのと変わらないのだ、と思い知った。モールに近づいても、大概は駐車場を抜けなければならない。砂漠のへりを歩き続けて、ようやく建物に入ると、そこは別世界。つくづく思い知るのだ。ショッピングモールは歩く者のためには無い、という事を。


ショッピングモールだけでは無い。現在の都市構造はどれをとっても歩く事には向かない。この酷暑極まる時ともなれば、「木陰も日陰も無い」「コンクリとアスファルトに被覆されて熱の塊になっている」事実が迫ってくるけど、そうでない時だってやはり歩く事など意識されていない、という事には変わりがない。従って、こうした場所で過ごす事は苦行となる。


一番判りいい例が、コミケ、じゃないだろうか。


コミケ78 1日目 2ちゃんねる実況 まとめ:【2chニュー速vipブログ
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コミケ78 2日目 2ちゃんねる 実況 まとめ:【2chニュー速vipブログ
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コミケ78 3日目 2ちゃんねる 実況 まとめ:【2chニュー速vipブログ
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自身はコミケに興味が無いのだが、これほどの人が集まる事には興味がある。で、この酷暑の中、だいぶ体調を崩す人々も出たようだ。会場周囲の写真とか見ると、死人が出ないのが不思議なくらい。
こうしたコンベンショナルセンターの類も、確かに人の収容能力はあるのだろうが、どうにもその設計思想において、人間のスケールに合わせて造ってある気がしない。というか、造ってないのだろうな。昔、こんなエントリーを挙げた。


自滅する地方 〜エウルの夢、幻のゲルマニア
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20080128/1201511506


古くからの街は、大体“等身大”に造ってある。だから、徒歩も当然考慮されているのだろう。至る処に木陰や物陰があり、商店街などはアーケードもある。ちょっと一休み、という年寄りもネコも見掛ける事が出来る。
ベトナムに行ったときには、日本よりも蒸し暑いサイゴンが、至る処にある木陰と木陰に設けた卓と椅子のおかげで人々が憩う事が可能である事を知った。昔の日本でも縁台を出して涼むなんて風習があったのを知っている最後の世代かもしれない。


しかし、今の都市?郊外開発にはそうした“等身大”の意識は感じられない。ひたすらデカイ建物と道路と駐車場と。見通しの問題か木陰も物陰もなく休むところは外にはない。こうした歩行者意識の無いのは、設計者達もクルマでしか移動しないからだろう。現在の街は、夜だって日中にたっぷり陽光を吸い込んだアスファルトとコンクリによって熱を放ち続ける。
そういえば、こんな話があった。


「商店街明るく」 浜松の田町中央、アーケード撤去 / 静岡(全国商店街トピックス 日本の商店街を元気にする)
http://blog.goo.ne.jp/spiritek_2005/e/fc17625f783595700b5b096c161e296a

5月18日 静岡新聞
浜松市の市街地の商店でつくる「田町中央通り繁栄会」(竹内公一会長)は今月から、地元の田町中央通りのアーケードを撤去した。「空き店舗が目立ち、沈滞する市街地を少しでも明るくしたい」と竹内会長。開放感を打ち出し、人の流れを取り戻そうとの思いだ。
 一部を残し、4月から撤去を始めた。繁栄会は今後、「光と緑の並木道」とテーマを決め、太陽光と風など自然の良さを前面に特長をPRしていく。昨年から開いているイベントも継続し、人を呼び込む。
 アーケードは鍛冶町通りからの約200メートルの間にあった。完成したのは約30年前という。左右両方の通りにあった。
 竹内会長は「市街地活性化に向け、とにかく動かなくては。これからもできることから取り組みたい」と意気込む。
http://www.shizushin.com/news/local/west/20100518000000000037


たぶん、この会長さんは、歩く、という習慣がない。あったら、ここに描かれているような「「光と緑の並木道」とテーマを決め、太陽光と風など自然の良さを前面に特長をPRしていく」なんて事は、ごく僅かな季節しか楽しめないものだ、という事に気付くだろう。
夏には日陰を。冬には風を遮るものを。ちょっと腰掛けて休むところを。
クルマに乗る人間にとっては、アーケードも商店街もどうでもいい。広々として、歩行者に煩わせれない道を走って、楽に停められる駐車場があって、建物の中だけ快適ならいいのだ。ドア・トゥ・ドアとはそういう事だ。


だが、もうそういったやり方は見直した方がいいんじゃないかい?
自分の足で歩いて移動して、どのような街が“等身大”で暮らしやすいのか、真剣に考える時が来ていると思うよ。日本中が阿久根市にならないうちに。


阿久根のことについて。市長のこと。A-Zのこと。 - SMCN open 乾門
http://d.hatena.ne.jp/inuimon/20100809#1281364186