デッドマン・ウォーキング（ネタバレあり）を考える

「デッドマンウォーキング」は「死刑」を扱った映画です。

恋人達が拉致され、少女は暴行され、犯行発覚を怖れた犯人達に二人とも殺されて沼地に沈められます。犯人達は逮捕され、一人は裁判で死刑が決定します。
死刑執行が近づく中、ある尼僧がその死刑囚から贖罪の言葉を引き出そうと面会を続けますが、死刑囚はそんな尼僧の言葉をせせら笑い、はねつけます。そして、死刑執行の時が訪れます。

デッドマンウォーキングは、公開当時に死刑論議に一石を投じましたが、死刑反対の人からこんな批判が出ました。
「あのような死刑囚の描かれ方では、死刑は当然に思えてしまう。」
そう、映画における死刑囚は、まったくの凶悪犯で更正の余地は無く見えます。犯行動機は身勝手極まりなく、犯行は残虐非道、公判中や公判後も反省の色無し。被害者家族を罵るような言葉さえ口にします。
このような犯人を見て、死刑にせずにおられようか。
この映画は「心底のクズ野郎であっても死刑に反対することが出来るか？」という問いになっていました。それは映画が登場人物の誰にも感情移入させないように引いたポジションをとった事で示されます。冤罪でもなく、同情の余地もない、それでも死刑はダメだと云うことが出来るか？
しかし、監督のティム・ロビンスは死刑反対論者なのです。ティム・ロビンスは映画を通じてこう伝えるのです。

「真性の、更正の余地が無く、残忍な加害者であっても、死刑には反対だ」と。

これは私見に過ぎませんが、加害者の贖罪と被害者遺族のカタルシスは互いの会話によって行いうるのでは、と考えています。とりわけ被害者遺族にとっては苦痛でしょう。しかし、遺族の真摯な「家族は何故に殺されなくてはならなかったのか」という問いが届かないとは思いません。奪った命の大事さを知らせ、二度と戻らぬ事の重要性を悟らせる事無しに罪の償いなどできないでしょう。死刑はその可能性を奪ってしまうのです。

死刑が決まるとどうなるでしょうか。死刑囚に対する接見は極端に制限されます。家族であっても面会はなかなか叶いません。被害者遺族となればまず会うことは出来ません。強制される死を従容と受け入れさせるために心を乱すような事は出来ないからです。デッドマン・ウォーキングでは、死刑の様子を遺族達が見ることが出来るようになっていました。昔はそれこそ見物人の目の前で執行したようですが、現在死刑制度が残っている州でも執行室と見学者はマジックミラーなどで仕切られているようです。
日本ではそれさえもありません。突如として執行され、執行後にそれが伝えられるだけです。
つまり、例えば上告棄却となり、間違いなくそうなるでしょうが、死刑が決定すれば、本村さんは犯人から贖罪の言葉を聞くことすら困難になるのです。何か疑問に思い問いただしたくても、真実の言葉が聞きたくても、刑が執り行われれば“永遠に”聞くことは出来なくなります。むしろその方が問題では無いか、と思うのですが。

自分が身内を亡くしたときに感じたこと、それは「話さなかった事がたくさんあった」ということでした。
我々は日常において未来を現在の延長としてデフォルトで考えています。しかし、それが突然断ち切られる可能性だってあるのです。普段、その可能性など夢想だにしませんが。別れるときに気にも留めていなかったこと、「後で聞けばいいや」と考えてしまった何気ない言葉、二度と尋ねる事の出来ない問い。宙に浮いてしまった言葉の欠片。聞きたかったこと、聞いて欲しかったこと。ふとしたはずみに、大事なものを失ったことを“突然として”思い出すのです。

本村さんは、自分とは比較にならないほど酷い形で大事なものを失った方です。彼のカタルシスが、彼自身が語っているような被告の死によって得られるとは、私は思わない。彼は被告と会話し、真実を贖罪の言葉を求める権利がある。そして、被告にはそれに応える義務があると思う。死刑を選択しない事は逃げにはならない。むしろ、生きて本村さんに正対し、問いに応える方が重い刑だと思うのですが。

それにしても、文学作品は当然ながら、日本のサブカルチャーである漫画でも「罪と贖い」は一般的なモチーフだと思っていたのですけどね。

「るろうに剣心」の緋村剣心。「トライガン・マキシマム」のヴァッシュ・ザ・“スタンピード”とナイブス。「Monster」のヨハンとアンナ。「鋼の錬金術師」、「からくりサーカス」しかりです。
そもそも元祖日本のヒーロー「月光仮面」を通じて、先日無くなった川内康範はこう語っています。
「憎むな！殺すな！赦しましょう」
フィクションだから、と云わず、物語に込められた思いを受け止めるべきだ、と思いませんか？

これでしばらくお休みです。更新は連休明けになるでしょう。よいお休みを。