シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

コンパクトシティは限界集落を見捨てない

もう少しフィールドワークした上で載せるつもりだったが、素晴らしいエントリーがあったので便乗させて頂きます。


・高度に発展した都市に住む人は郊外と山村の区別がつかない
http://d.hatena.ne.jp/trivial/20080227/1204121970


・地方都市の問題と限界集落の問題。 - うさたろう日記 はてな版。
http://d.hatena.ne.jp/usataro/20080210/p2


・地方都市の問題と限界集落の問題(その2) - うさたろう日記 はてな版。
http://d.hatena.ne.jp/usataro/20080211/p1


今まで自滅シリーズなどでコンパクトシティとはどういうものか、その必要性などを説いてきましたけど、コンパクトシティは賛成者、反対者共に誤解したイメージで捉えられている部分があるように思います。
つまり、「周辺部の限界集落を畳み、都市へ集中させるなければならない、そうで無ければ行政コストが増大しやっていけない。それがコンパクトシティだ。」という事ですね。


賛成者からは「そのとおりだ」と捉えられ、反対者からは「地方を、田舎を切り捨てるのか」と云われる。
ですが、コンパクトシティで重要な事は、限界集落のような山間地村落を畳むような話ではなく、都市周縁部、現在人口が多く、経済活動も活発に見える地域を中心部に再配置し直せ、という話だ、という事です。自分が調べた限り、地方自治体の赤字事業といえば、「上下水道」「区画整理事業」「道路事業」です。郊外に住宅地を造るために「区画整理事業」を行い、「道路」を行き渡らせる。で、郊外住宅地に「上下水道」を引く、と一繋がりの事業なのですが、これらは全て行政コストを引き上げるのです。行政側の狙いは「区画整理事業」による「固定資産税」増収ですが、かつてはともかく、現在は中心市街地の「固定資産税」減収に繋がるため、効果的では無いようです。一方で市街地の面積が広がる分、インフラ整備・維持費用が増大してしまう。
商業面においても問題があります。中心市街地の中小商店が「郊外化」によって廃業する状態は地元経済を衰退させます。
郊外に出店する大規模店舗の売りは何か?それは
・低価格
・豊富な品揃え
なわけですけど、低価格な理由が
・人件費の圧縮
・安い地域からの調達
です。大規模店舗で働く従業員は、中心市街地の中小商店とは相対的に少人数ですし、大概非正規労働者です。当然、彼らの雇用機会も収入も少ない。
また、安い地域から調達される商品、ということは、地元ではなく外からもたらされる商品、ということです。結果として、大規模店舗の売り上げが増大すれば、「外部」からの商品を買い入れ、「外部」に商業利益が流出する、という事になります。
地元生産品が地元商店で扱われれば「地域内」で回った筈の金が、速やかに出ていく事になるのです。
かくて、地域でお金を回す事が出来ず「需要」も「供給」も「地域外」頼みになれば、「外部」の企業誘致に積極的にならざるを得ません。で、企業誘致を進めるためにさらにインフラ整備を行えば、一層「外部頼み」になってしまうのです。


では、その時計の針を逆転させるにはどうしたらいいか?それが、中心市街地への再集中を図る、もしかしたら地域によっては初の集中の可能性もありますが、事であり、不採算な事業をスリム化し、同時に地域経済を再活性する事に繋がるのです。その中で重要なモデルが実は「限界集落」です。


現在では高齢化率も高く、人口流出の進む地域ではありますが、では、なぜそんなところに集落ができたのでしょう。そこに「産業」が存在し「雇用」があったからです。その産業とは「木材」「蚕」がメインです*1。逆に云えば、「木材」と「絹」が外国勢との競争に敗れ衰退したことが、限界集落を生じさせたのです。
かつて輸出産業の花形でもあった絹糸ですが、現在では需要も小さくなっています。昔のような規模での復活は望むべくもないでしょう。ですが、木材の方は決して需要が小さいわけではありません。ほとんどが輸入材に取って代わられただけです。世界の木材市場で日本の需要は巨大なものがあります。簡単に云えば買い漁っている状態なのです。問題は、海外木材の多くが回復不可能な天然林木であることです。ロシア・中国東北部のタイガ、インドネシア・マレーシアなどの熱帯雨林木、他、切り倒させれば植生復活が難しい地域の木材が日本に輸入されているのです。
おかしな話です。国内では木材産業を衰退させて山林荒廃が目立つ状態なのに、一方では海外で環境破壊を進めてまで木材を輸入する。これらの問題を単に「価格が安い」だけで済まそうとするなら、自由主義経済というものに全幅の信頼を置くことは出来かねます。


ですから、木材の輸入全面禁止を提唱しましょう。今すぐ、では混乱を招くでしょう。一定のモラトリアム期間をおいて国内産木材へのシフトさせる。世界の天然森林保護に繋がり、限界集落地に産業と雇用を創出する事になるのです。木材産業の復興は山林を維持し、副次的にバイオマス燃料供給にも繋がります。その山林木材の需要が地域で賄われれば最も効果的です。
地域外部から木材を安価に手に入れるのではなく、地域内部で手に入れ、地域経済が回るようにする。商業の話と同じなのです。


木材だけではありません。コンパクトシティ化を進めた場合、かつて農地から宅地へ転換された地域の再農地化も考慮されるべきです。木材と同様に地域内、市街地の後背地から農産物を供給する。この場合もフードマイレージだけの問題ではなく、地域でお金を回すことになるのです。


地域の郊外化を促進し続け、外部から金と雇用と物を呼び込み、しかし、外部に金と物を流し出す、急斜面を水が流れるかのような地域経済を目指すか*2
地域の再集中を行い、内部で金と雇用と物が生み出され、出来るだけ循環するような仕組みを作り出す、多段式の滝*3のような地域経済を目指すか。
どちらの方が望ましいでしょうか。


コンパクトシティは単純に「街を小さくする」だけではありません。集約して効率を上げ、同時に地域内で可能な限り経済を回す仕組みでもあります。コンパクトシティ限界集落を見捨てないのです。

*1:静岡だと茶が加わります

*2:この形を相似拡大したのが「グローバル経済化」

*3:カスケードスタイルといいます