シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

福もっちゃん、それ、違うから!(スラムドッグ$ミリオネアのネタバレあり)

前回のエントリーで、「グラン・トリノ」の映画評を載っけたわけですが、id:Prodigal_Sonさんよりコメントを頂きました。


http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20090509/1241879603#c1242003720

また福本次郎センセイの映画評がソテキです。
http://www.cinemaonline.jp/review/ken/7447.html
最後のオチはわかったようで一安心ですが、その前までがねえ…


で、読んでみました。 …。なんか、端々に間抜けな事を書いてますけど*1、以前指摘されていたヤツよりは、幾分マシかな、などと思って、ついでに福もっちゃんの「スラムドッグ$ミリオネア」の映画評を読んでみたわけですよ。


見映画批評 スラムドッグ$ミリオネア 福本次郎氏
http://www.cinemaonline.jp/review/ken/7457.html


そしたらどうよ?この人、さっぱり判って無かったのよ!これはちょっと見逃せるレベルじゃない!


恐るべき貧しさの中で生まれ育った少年(シートン注:主人公ジャマールのこと)は、見たこと聞いたこと感じたことをすべて覚えているだけでなく、意識せずとも目にした光景や耳にした情報を確実にインプットし保存できる驚異的な頭脳の持ち主。


いきなりお前は何言ってるんだ。そうじゃないだろ?映画のオープニングで出てくるじゃん、「史上最高額の賞金獲得に手が届いたのは?」 「偶然」「天才だった」「イカサマだった」「運命だった」って選択肢が。あれはね、ジャマールが天才だったから、答えとなる出来事を覚えていた訳じゃない。


忘れようとしても忘れることの出来ない、目に焼き付いた記憶、それにまつわる問題が出題された、って事なんだよ。だから、途中で警官に「100ドル札の肖像画は誰か判るのに、1000ルピー札の肖像が誰かは判らないのか」と皮肉られ(そしてイカサマを疑われ)るわけだよ。それは、100ドル札に纏わる記憶が、自分もそうなるかも知れなかった孤児仲間、目を潰され歌を唄って物乞いをする少年、との再会だったからだ。他も同じ。母を殺したヒンドゥー教徒達のシンボル、ラーマ神に纏わる問題であったり、孤児達を食い物にするヤクザの隠れ蓑の名前だったりするからなんだわ。


なのに、こんなトンチンカンな事を書いてるし。

ジャマールは、このクイズ番組レベルの雑学は出場しても勝算がある上、探している恋人に自分の存在をアピールできると考える。


違うって。ラティカと手を取り合って逃げようとしたジャマールは、ラティカを失い(再び囚われて)、彼女にせめて自分の姿を見せたいと願う。で、彼はラティカがミリオネアを欠かさず見ていた事を知っていた。そして、彼はミリオネアに出場するのにどうしたらいいか知っていた。だから、ミリオネアに出場する。で、そこで出題される問題は“なぜか”自分が知っていた事だった。
Q.それはなぜか?


A.運命だから*2


“Written”ってありますけど、これは、「(すでに運命に)書かれている」って事。
だからジャマールは最後の問題に失笑する。それは、自分達が擬えていた「三銃士」に纏わる問題だったからだ。そして、その答えのアドバイスを受けるべく電話をした相手は“なぜか”ラティカだった。答えはわからない。でも、彼は確信する。自分の答える答えが正解であることを。それは“(ラティカと巡り会う事が)運命だから”なんです。


なのに、福やん、こんなトンチンカンな事を書いてます。

また、タージマハールではいつの間にか英語を身に付け、観光客相手に稼ぐようにまでなるほど適応力も高い。彼の読書や勉学はあえて描かれないが、IQの高さは後に学生に茶を配るシーンでも披露され、これが天才の物語であると印象付ける。

違うって。タージマハールで観光客を煙に巻く案内は、まったくのデタラメだった。コールセンターで受けた電話に答えようとして、目に留まったものを頼りに誤魔化そうとするが失敗する。つまり、彼の才覚は世渡りするには充分だが、確固たる知識を持っている訳じゃない、事を示しているの。これは、彼の快進撃が彼の力ではなく、“運命による”事を示すためなんだよ。


兄サラームはその事に気づくに至る。弟はラティカを求めてクイズに出場し、そして勝ち進む。それが運命ならば、ラティカがジャマールの元へ辿り着くのも運命だと。だからこそ、彼はラティカに自分の携帯を渡し、ジャマールの元へ行かせる。


なんか、福やんって年間に見る映画の本数って自分より遙かに多い筈なんだけどね。こんな映画評書いている上に、それが権威になってるのって驚くぜ。

*1:ちなみに、コワルスキーは誇り高いゆえに孤独なのではありません。彼が戦争によって負った心の傷によって、他人に心を開かず、ゆえに他人との付き合いが出来ない、そして実の子にも疎まれてしまうわけです。だからこそ、ラスト近くで息子に電話をするんです。

*2:ちゃんとエンディングに出てきます