シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

LRT

LRTにちょっと触れたので、LRTについて述べる事にする。
 
LRT(Light Rail Transit)は現在注目されている公共交通システムである。
試しにGoogleで"LRT"を検索すると、あちこちの自治体に導入を図ろうとしている事が判る。
自分の近隣である静岡市(旧清水市)でも市民団体が宣伝に努めている。
 
LRTで結ぶ会 清水
http://orange.ap.teacup.com/lrt-shimizu/
 
ここに限らずLRTの特徴、長所が述べられている。特に海外の都市で導入された結果、都市中心の活性化に役立つなどの話もあり、期待は高まるばかりだ。
 
身近な都市交通LRT
http://www.jtpa.or.jp/contents/lrt/index.html
 
LRTのある風景
http://www.sunloft.co.jp/gallery/lrt/menu.htm
 
どこのサイトでも「是非○○市に導入を!」という感じだが、ちょっと待って欲しい。LRTは確かに優れた特徴を有する交通機関だが、大事なポイントに注目することなく安易に導入すれば、大失敗に終わる事だろう。

LRTの何が問題なのか。それはLRT自体に問題があるわけでは無い。問題になるのは運用条件である。

LRT導入を行った海外都市について調べてみればそれは明らかである。
LRTの導入条件、それは「自動車の流入規制」である。
 

LRTについて海外の事例を集めている両サイト、この中に登場する都市、例えばストラスブール(フランス)やポートランドアメリカ)においても、都市中心部への自動車の進入を制限、または禁止している。LRTは導入されていないが、ロンドン(UK)のように流入に税を掛けるロードプライシングを行うところもある。
 
ストラスブールの交通政策
http://eurotram.web.infoseek.co.jp/str/poli.htm
ようこそ Le Tramへ
http://eurotram.web.infoseek.co.jp/jp_top.htm
 
実はこれは当然の事だ。公共交通機関はその便利さにおいて自動車に及ばない。それが自動車の伸長の原因であり、公共交通機関の衰退の原因である。この点は公共交通機関にどれほど魅力がある、とアピールしてもそのままでは逆転の可能性はない。だからこそ、各都市は自動車の使用を制限し、代替手段としての公共交通機関を促進しているのだ。
自動車の制限を行わないままにLRTを導入したらどうなるか。LRT路面電車であるから、渋滞があればその影響を被る。また逆に自動車の通行の妨げになる。現在、荒川線しか残っていない都電も、交通の妨げになる事とダイヤの不正確さが衰退の原因となった。低床にしようと、乗り心地がよかろうと、静かであろうと自動車と一緒に運用される限り、この欠点は解消しない。つまり苦戦は免れないのだ。地下鉄や高架鉄道(モノレールを含む)はこの欠点をクリアするために建設されたが、車との競合に晒されれば建設コストや運用コスト高に苦しみ、赤字を出すことになる。これが日本の各都市で起きている現実だ。大都市圏を除けば地下鉄やモノレールはその多くが赤字だ。その一方で都市内での慢性的な渋滞も解消されない。
 
海外の各都市はその欠点を逆手に取った。完全に車を都市中心部から閉め出す。または自動車の通行制限によってLRTの専用レーンを確保する。この政策によって自動車は「やや」使いにくくなる。かわりにLRTのような公共交通機関、または自転車が利用しやすくなる。自動車の制限がそのまま公共交通や自転車のアドバンテージになっているのだ。これによって自動車利用からLRTや自転車への移行が促進される。利用者の増大は交通機関の運営状況改善に繋がる。利用者増加によって料金を下げることが出来れば、さらに利用状況は改善、という好循環になる。この逆が日本の都市の状況だ。自動車の増加で利用者が減れば、料金値上げに踏み切らないわけにはいかない(でなければ補助を受ける)。そうすればさらに利用者が減り、状況は悪化する、という悪循環だ。
 
環境面においても重要だ。公共交通機関や自転車は、それ自体が空気を綺麗にするわけでもCO2を減少させるわけでもない。自動車から公共交通機関や自転車に乗り換える事で改善する。そのためにはLRTや自転車のインセンティブを伝えるだけではなく、自動車にハンディを与える必要があることはすぐわかるだろう。
 
これらの視点がLRT導入を求める論調に欠けているように感じるのだ。実際にLRTと同時に自動車制限に触れたところはほとんど無い。だが、それが行われなければLRTはその長所を生かすことなく、赤字を垂れ流すお荷物と成り下がる。
 
ちょっと考えを進めてみる。LRTに要求される条件は、
・低床である。
・高速で大量輸送
・静粛性に優れる
要求される各要素だけ抜き出して考えると、かならずしもレールも、架線も必要ない事が判る。バスでも良いのだ。LRT導入の条件と同じく、自動車の制限を行い専用レーンを設ければ、バスも時間に正確な運行が可能だ。エンジンも以前に述べたようにハイブリッドディーゼル等を用いれば環境面では電車に劣らない。架線やレールが不要な分、低コストで済む。実際にブラジルのクリチバでは世界有数の「持続可能型都市」が実現されているが、そこの主要交通機関はバス(連結型バス)である。
 
南の持続可能都市(6)オシャレなテザイン
ウェブ探検 市民メディアインターネット新聞JanJan
http://www.janjan.jp/special/0403/0403182184/1.php
http://www.janjan.jp/special/econavi/list.php
 
大事なポイントはつまり、公共交通機関の導入は自動車の制限とセットである、というところだ。これが行われれば、バスでも魅力的な交通機関となる。行われなければ、LRTもお荷物になるのだ。
 
もう一つ、自転車はどうか。代表的な都市がミュンスター(ドイツ)である。ここでも都市中心部に自動車は流入できない。ミュンスターのすばらしいところは、公共交通機関と自転車が有機的に結合されている点だ。
 
環境首都ミュンスター ドイツ環境ジャーナル
http://blog.goo.ne.jp/madokuccia/c/ab75256ea2537c25fe94aeba5eefa20c
カーフリーな暮らし ドイツ環境ジャーナル
http://blog.goo.ne.jp/tbinterface.php/88df47d935c46b6d0e67f25727408d0b/23
 
自転車の小回りの利く便利さと公共交通機関の高速、大量輸送力が巧く組み合わされている。各個人が自動車で都市部を通行するよりよほど有効な交通政策が実現されているのである。
自転車については、また別項で述べる事にする。
 
さて、LRTで結ぶ会の願いは実現するだろうか。
 
LRT(路面電車)の導入で街の活性化を 海野BLOG
http://unno-toru.blogzine.jp/blog/2005/11/__db71.html
 
清水でも静岡でも都市中心部への自動車流入制限は行われていない(休日の呉服町商店街と七間町を除く)。逆に自動車が流入しやすくするよう進められている。その一例が静岡駅前の市営駐車場エキパである。多額の税金を注ぎ込んで市の中心部に自動車流入を促進しようとしているわけだ。静岡市は自転車活用のモデル都市にも選ばれているのだが、海外の例にさえ学んでいない。どのような市街が望ましく、交通面で優れるかのビジョンに欠けている。
 
エキパ
http://www.city.shizuoka.jp/deps/toshi/koshin/koutsuseisaku/ekipa/ekipa_top.htm
 
こうして考えると、静岡にLRTが導入される事には疑問を抱かざるを得ない。おそらく市の都市政策担当者がLRT導入に積極的とは考えにくいし、また積極的であったとしても自動車に制限を掛けない状態での導入は無意味である。これは日本各地、どこでも同じである。
 
LRT導入を考える自治体は、まず市街の交通はどうあるべきかビジョンを持つべきだろう。そのうえで海外の事例を充分に検討し、そのうえで導入の是非を決定して欲しいものだ。